2013年1月11日金曜日

(涙)

     *

 〈やってみせて/言って聞かせて/やらせてみて/ほめてやらねば/人は動かじ〉。山本五十六が残した有名な言葉だ。米ハワイの真珠湾を奇襲した連合艦隊の司令長官は、日米開戦を防ぐため、日独伊の三国同盟締結に体を張って反対した開明的な軍政家でもあった。その教育論は示唆に富む。
 百人いれば百通りの教育論がある。自分の経験が基にあるだけに、信念は簡単には曲げられない。ほめるよりも、叱る方が教育的な効果がある、と信じている人も少なからずいるだろう。
 大阪市桜宮高校のバスケットボール部の主将が先月自殺したのは、部活の顧問の男性教諭の体罰が原因だった。自殺の前日には三、四十回殴られた、と心配していた母親に明かしていた。顧問がしたことは教育的指導などではなく、明らかな犯罪行為だ。
 閉鎖的な学校空間が暴力のはびこる実態を外から見えにくくしている。複数の教員が体罰を目撃していたが、黙認していたという。過去のいじめ事件から何を学んできたのだろうか。
 自殺する前日、顔を腫らせて帰ってきた時も、「弁当おいしかった」と母親を気遣う優しい子だった。主将でなければ、強豪校でなければ、常軌を逸した暴力にもっとサインを出せたのではないか。そう考えると、やりきれない。
 ほめられ、叱咤(しった)されて伸びる才能はあろう。踏みにじられて伸びる芽はない。 

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Kingo Sasa【笹  謹吾】شكرا 🌻



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